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ゲームブック 夜空の光を見て何を想う
ゲームブック 夜空の光を見て何を想う
媒体 Kindle
作者1 一合愉
作者2 Sゲームブッカー
出版社
ジャンル
パラグラフ数 600
必要なもの 紙と鉛筆。
書評・感想
概要
プロローグ
 中学3年の夏休み、僕らは厳しい水泳部の練習を終えて、更衣室である教室から校門に向かって歩いている途中だった。
「市大会まで、あと3日だな」
 隣を歩いていた、目つきの鋭い筋肉質な男が低い声で言う。彼の名は大野伝五郎(おおのでんごろう)。僕らが所属する水泳部の部長である。背の高さは僕と変わらないが、体つきが全然違う。服を着ていても、筋肉の盛り上がりがよくわかる。水泳部の中でも断トツの泳力をもっており、自分に厳しく他人にも厳しく、鬼部長として後輩から恐れられている。
「市大会かあ。伝五郎はともかく、僕と武広は、それが最後の大会になるんだろうな」
 伝五郎の後ろを歩いていた清水武広(しみずたけひろ)のほうを見ながら、僕は言った。
「そうだねえ。今年は、県大会に行けるのは伝ちゃんくらいかなあ。僕と新ちゃんは、本当にもうすぐ引退だね」
 伝五郎とは対照的な、男としては高い声で武広が言った。性格も穏やかで、顔も「かわいい」部類に属する。坊主頭がよく似合い、先輩達には「くりくり坊主」と言われてかわいがられていた。
「今年こそは県大会に行きたかったんだけど、あんまりタイム伸びなかったなあ」
 市大会で、ある設定されたタイムより速く泳げれば、次の県大会に進むことができるのだが、僕と武広のタイムは、その設定タイムにほど遠い。
 順当に行けば、中学に入ってからの2年半、水泳部に大部分の時間を費やしてきたが、3日後には引退することになる。そのぽっかりと空いてしまう時間を、僕は何をして過ごせばよいのだろうか、そんなことを考えていた。
 これまでは、水泳部の引退が人生の終着点のように考えていた。その後は高校受験のために勉強することになるのだろうけど、具体的にその先の人生を思い浮かべたことはなかった。僕は高校へ行ったら何をするのだろうか。将来はどんな風に過ごしていくのだろう。
「2人は、水泳部を引退したら、その先はどうするの?」
 僕は2人に問いかけた。伝五郎は、にやりと笑みを浮かべながら、得意気に話し出す。
「俺は、今回の大会次第なんだ。この夏の大会でいい成績を残せば、スポーツ推薦で高校へ行けることになってる。そうすれば、この先も水泳三昧の生活さ」
「伝五郎は、スポーツ推薦かあ。武広はどうするの?」
「僕は、特に考えてないなあ。とりあえず、行ける高校に行こうかと」
 武広は、申し訳なさそうに頭を掻きながら答えた。
「まあ、大抵はそうだよな。僕もそうなんだ。でも、将来はどんな風に過ごすんだろうとか、先のことをもっとちゃんと考えなきゃいけないのかな、なんて思っちゃってさあ」
 僕の言葉に、2人は「将来かあ・・・」と呟いて、黙り込んでしまった。
 しばらく沈黙が続いたが、やがて武広が頭を上げて話し出した。
「将来とかは全然考えてないけど、今年中に大きなことを1つやる予定なんだ」
「なんだ? 大きなことって」
 伝五郎が間髪入れずに言う。それに対して、武広はにこりと笑った。
「何をするかは秘密。でも、僕にとっては、将来のことよりも目の前の大きなことのほうが大事。将来のことを考えるよりも、今できることを精一杯やりたいな」
 このときは、練習で疲れていたせいもあり、なるほどと思っただけで、何となく聞き流してしまった。しかし、この武広の言う「大きなこと」が、中学3年の夏から秋にかけての出来事の中心にあり、僕の中学校生活の中でも一番印象に残る出来事となるのであった。
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